オーダースーツにとって一番大切なことは何か。
実に難しい質問です。
生地選びはもちろん大切ですし、いかに魅せるかというデザインの考案、ボタンや裏地などのディティールも、こだわるととても楽しいですし、一工夫で仕上がりイメージを大きく変えることができます。
採寸とサイジング
でもやはり一番大切なのは採寸です。
もう少し厳密に言うと「サイジング」です。
実は採寸自体はそれほど難しくありません。体の各所を決められたとおりにサイズを測っていくだけなので、大きな間違いさえしなければ大体誰が測っても同じサイズになります。
しかし、実際は測った通りに仕上げるのはウエストくらいのもので、肩幅、胸回り、ヒップ、モモ幅などほとんどの個所で「ゆとり」をもって仕上げます。
もしこの「ゆとり」が0だと、ぴちぴちのタイツのようなスーツが仕上がってしまい、とてもじゃないですが着れたものではありません。
各所のゆとり量などを計算し最も体が綺麗に見え、なおかつ動きやすいデザインを割り出していくこと。これをサイジングと呼んでいます。
スーツ胸回りの最適なゆとりとは
例えば胸回りで10cm~12cmくらい、胴回りで10cm~20cmくらい、ピッタリに見えるヒップでも必ず3cm~8cmくらいはゆとりがあります。
お客様の生活スタイルやイメージするシルエット、体型の細かなクセなどを考慮にいれつつこのゆとり量を決定し、スーツのシルエットを作り上げていきます。
中でも全体の印象を大きく左右する箇所が、上着の胴回り、それからパンツのモモ幅、ヒザ幅です。
上衣の胴回りというのは、上着の中で一番しぼりが効いている箇所なので、肩幅とウエストのラインの関係というのはスーツ全体のシルエットを構成していく上で一番重要なところです。
胴回りの最適なゆとりは
上衣の胴回りのゆとりは、お腹の出ている人は大きく、痩せているでは小さく・・と思われがちですが、実は逆です。
太っている体型の体を綺麗に見せるためには、ゆとりを小さくし肩幅から大きくなりすぎないようにします。
また痩せている人に対して、ゆとり量を小さくしすぎてしまうと、レディススーツの様なくびれたシルエットが強調されてしまうため、必ずしも最適とはいえません。むしろ逆に少しゆとりを持たせ自然なシルエットを出した方が格好良く見えることがあります。
もちろんこれは個人のお好みや、体型の細かな差異によるところもあるので一概にこの通りとは言えませんが、意識する方向としては概ねこの通りです。
パンツのシルエット作りで大切なこと
もうひとつシルエットを大きく左右するのは、モモ幅とヒザ幅です。
モモ幅はヒップ回りの寸法から決めていきますが、例えばノータックのパンツですとヒップ回りの実寸から3cmくらい大きく仕上げることが多いです。
1タックのパンツの場合、同じ3cmのゆとりで仕上げてしまうとタックが開いてしまいあまり格好良くありません。
1タックなりのゆとりあるシルエットを活かしつつ、タックが開かないようにかつスマートに見せるためにはもう少し(5cm~)ゆとりを持つ方が良いことが多いです。
スポーツマンの方に多い体型
昨今の流行では、全体的なシルエットを細く仕上げる事が多いです。ノータックでも1タックでも「できるだけ細く」というご要望が多いです。
上記のようにヒップまわりから細く見える最適な寸法を見つけていくのですが、もう一つ重要な要素が太モモです。
特にスポーツをやってらっしゃる方に多いのですが、太ももはトレーニングでしっかりした太さがあり、逆にヒップは引き締まってらっしゃる方。この場合はヒップのみに注目してしまうと太ももがきつくて入らないといった事になってしまいます、
太ももとヒップの両方を考慮に入れ、最適な寸法にしていきます。
ゆとりは欲しい、でも細く見せたい
ヒップが大きい人、太ももが張っている人、体型の差は様々ですが、スマートに細く見せたいという願望は意外に共通です。
この場合最も有効な方法は、ヒップや太ももはゆとりを持たせておいて、ひざ周りから裾にかけてを細く絞り込んでいく。というスタイルがとてもおすすめです。
こうしておくと、「ゆとりがあって、なおかつ細く見える」という絶妙なラインに仕上げることができます。
ひざや裾は、最低限のゆとりさえあればそれほど窮屈に感じることはないので、絞ってしまってもそれほど問題はありません。むしろヒザ位置を少し上げて設定するなどの工夫を加えると、足長効果も期待でき、着心地をほとんど損なわずに格好良い締まったシルエットができます。
まとめ
スーツのデザインというのは実に様々な要素が絡んできて、楽しく追及し甲斐のある部分です。
私個人のスーツを作るときにも、いつも少しずつサイズを変えて作ってその違いを楽しんでいます。
少しずつブラッシュアップして自分の確定したサイズを追い求めていくのも楽しいですし、季節や生地の種類によって全体のシルエットを少しずつ変えていってみたりするのも楽しいかもしれません。