春はとても過ごしやすくおしゃれも楽しめる季節ですが、そこから夏にかけて暑くなってくると着るものにも困ってきます。
日本の夏は特に蒸し暑く、スーツスタイルやジャケットスタイルには向かない季節ですが、それでもお仕事上、上着を着なくてはならない時や、ジャケットを楽しみたい時はあります。
スーツの原料となるウール(羊毛)はとてもよく出来た素材で、それぞれの季節に合わせて冬は暖かく、夏は涼しく着ることのできる素材です。よく考えたら天然の羊はその素材だけで年中過ごしているので、当たり前といえば当たり前です。自然の力はすごいですね。
今回はそのとても優れた素材であるウールを中心にそれ以外の素材も含めて、夏用のオーダースーツやジャケットとして最適な素材をご紹介します。
夏用のオーダースーツ、オーダージャケットに最適な素材いろいろ
まず夏用のオーダースーツ素材とてしてとても普及しており一般的に挙げられるのは「モヘア」という生地です。
モヘアはアンゴラヤギというヤギの毛から作られた生地を指します。
モヘアの特徴は繊維自体の持つハリとコシが強く、通気性がとても良いのが特徴です。またシルクと見間違えるような独特の光沢を持っています。
オーダースーツ用生地の王様『エルメネジルド・ゼニア社』からは「Mohair Trophy」。パフォーマンスに優れた人気のミル『カノニコ社』や人気の『レダ社』など各社から様々な種類のモヘア生地が展開されています。
モヘアは夏用には最適の素材ですが、その一方やや摩耗に弱く、シワになり易いという特徴もあります。そのためモヘア100%もありますが、ウールと混紡してしわになりにくく丈夫に作られている種類もあります。
サマーウール
サマーウールとは夏用に薄く織られた生地をいいます。
ウールと聞くとマフラーのようなモコモコしたものを想像しがちですが、羊毛を細く細く撚(よ)り、その細い繊維と使って織られた生地がサマーウールです。
ウールは本来、湿度を含んでくると顕微鏡で見た時に見えるうろこ状の部分が開き湿度を放出します。その時に気化熱として熱を奪っていきます。その素晴らしい素材特性のおかげで羊さんは夏でも快適にすごせるわけですね。
このサマーウールという極薄の生地、これも各社のラインナップに様々な名前で並びます。
各社から「トロピカル」といった名前でラインナップに並んでいるシリーズはこのサマーウールです。一般的には強撚(きょうねん)、薄さを確保するために極細の繊維を使い、強度を確保するために強く撚りをかけた糸を使った平織りの素材を指すことがおおいです。
高機能サマーウール
近年特に人気なのが、サマーウールの中でも高機能な種類のものです。
ゼニアなら「Cool Effect」、レダなら「Ice Sence」といった具合に、夏のオーダースーツ用にターゲットを絞り快適に過ごせるシリーズが多くあります。
その多くは、ウール本来の持つ調温効果をさらに上げる努力をしています。
例えばゼニアの「Cool Effect」は直径が17ミクロン以下の糸を使い繊細な生地を織りあげています。そこにゼニア独自の技術により太陽光を反射させる加工を施し、太陽から来る熱を体に受ける前に反射してしまおうという素材です。
ちなみに通常のゼニアのスーツの生地は20ミクロン以下のものを使っています。前述したとおりゼニアの「Cool Effect」は17ミクロン以下。それだけでもすごいのですが、クールエフェクトの上位クラス、ハイパフォーマンスクールエフェクトなら、平均16ミクロンとより極細になっていきます。
他にもレダ社から「Ice Sence」、カノニコ社からはトロピカル生地に枯れた風合いを持たせた「Rustic Tropical」といった種類の生地も発売されています。
麻
その他に夏用の素材として欠かせないのが麻を使った生地です。
麻の特徴はなんといっても涼しいこと。ご存知の通り植物性の繊維なので吸湿性も高く、湿度の高い日本でも最適な素材ですが、シワになりやすいことと弾性回復率に乏しいため伸びやすく戻りにくいことも特徴です。弾性回復率が乏しいということはスーツではどういうことかというと、例えば膝が抜けやすかったり腕まわりの形が付きやすいという特徴があります。
かっちりとしたスーツには向きませんが、少しカジュアルテイストを活かしつつラフに着るといった具合の着方には最適です。
仕立て
今回は生地の面から夏に最適なオーダースーツの素材について書きましたが、裏地や肩パット、毛芯などを極薄のものに変えることで仕立ての面から通気性を確保する方法もオーダースーツやオーダージャケットならではの方法です。
次回以降のいつか涼しく仕立てる方法についても書いてみたいと思います。
今回ご紹介できなかった生地も多数あります。
ぜひ「広島えびすテーラー」ご自分だけの1着を見つけ出してくださいね。