ムシムシするこの季節を涼しく快適に過ごすためにはスーツのジャケット自体の通気性、吸水(吸湿)性、軽さが重要になってきます。前回はスーツの表地の選び方や、生地の特徴を説明させていただきましたが、今回はその次に大事であろう裏地の素材やその面積、仕立てについて説明させていただこうと思います。
裏地の主な仕様
裏仕様といっても色々な種類がありますが大きく分けて二通りの仕立てになっています。
一つは、前後の身頃全体に裏地をつける総裏仕立て、もう一つは背中の下に裏地をつけない背抜き仕立てです。
既製品の場合の裏地は春夏用が【背抜き】、秋冬用が【総裏】となっているのがほとんどで、四季のある日本ではこれが一般的といえます。こちら、広島えびすテーラーでも裏地を選ぶ際、主に背抜き仕立て、総裏仕立ての二つの仕立てを季節に関係なくお選びいただいておりますが、お仕立てした際に全体の見え方にも多少の差が出てくるため、お使いいただくシーンやシチュエーションによって決めていただくのがいいかと思います。
そもそも裏地の役割とは?
裏地のメリットとして挙げられるのが、まず滑りを良くして脱着をスムーズにすることができたり、摩擦よって起こる表地の痛みや消耗を軽減させたり、汗や湿気による表地の変色、型崩れを防いでくれるなど、様々なメリットがあります。
一般的に裏地で使われる素材はポリエステルやキュプラで、高級品になるとシルクが使われることもあります。
ポリエステルは合成繊維なので強度がありシワになりにくく、乾きやすいのが特徴ですが、保湿性があまりないのが特徴です。
一方のキュプラはコットンリンターといって綿花を採取した後の実の表面に付着している繊維からできる天然素材のことで、ポリエステルに比べキュプラは保湿性や通気性に優れているので汗を吸い取り、発散してくれます。また、静電気が起きにくいという性質を持っているため裏地で使う生地として大変人気です。
その他にも着心地を良くしたり、きれいなシルエットを保ったり、オシャレに見せたりと様々な役目を果たしています。
裏地といえどもフロントボタンを外している時や、ハンガーにかけた時など意外と見えている事は少なくありません。
体感的なところではないですが、視覚的に涼しげなブルー系のカラーを選ぶ事でその場にいる周りの人たちをも涼しく感じさせるというのも一つの手ではないかと思います。
シチュエーションに合った裏仕様を選ぶ
総裏仕立て
日本では秋冬用スーツの裏の仕立てというのが一般的ですが、この時期にお仕立てになる場合、ポリエステルを選ぶよりもキュプラを選ぶ事で、吸湿性や通気性を上げ、汗をかいた際のムレを軽減してくれるので快適です。
また、暑いという印象が先にきてしまいがちですが、裏地があることで全体がしっかりと見え、仕上がりに重厚感があり見た目もカッチリとした印象になるのでビジネススーツ向きといえるでしょう。
背抜き仕立て
冒頭で説明しましたが、背抜きというのは読んで字のごとく背の部分(正確には背の下の部分)の裏地が抜いてある状態のことを背抜きといいます。
欧米諸国では総裏がメインであるため、背抜きは四季のある日本独特の仕様といえるようです。
背中の下の部分に裏地をしないので、その部分は表地一枚ということになります。通気性の良いトロピカルのような目付の軽い春夏用の生地で仕立てると更に心地よく着ていただけるでしょう。
半裏
上記の背抜きから更に横腹の部分の裏地を省いた仕様を、一般に半裏(はんうら)と呼びます。ここまで裏地を省くと、軽さや薄さがかなり感じられるようになります。
ただ、背中部分と細腹(横腹)部分の裏地も抜くので表地一枚の部分の割合が多く、柔らかい印象になりカジュアルな見た目になるので夏用のジャケットのみのオーダーに多い仕様です。
広見返し
夏用のカジュアルジャケットの仕立てで多いのが広見返しという仕様です。
全体的に芯地や裏地を省いて仕立てる方法で、襟の折り返しがそのまま前身頃の裏地部分までその分表地を使う事になるので贅沢な仕立てと言われています。
通気性の強いリネン素材やコットン素材で仕立てられると清涼感も増し、より一層涼しさを味わうことができると思います。
また、イタリアのナポリでは定番の、肩パッドを省いたマニカカミーチャという仕立てや、芯地のないアンコン仕立てとも相性がいいのでジャケパンスタイルで涼しく過ごしたいという方はぜひお試しください。
クール仕立て
スーツの肩パッドや芯地を、通気性が良く軽いメッシュ状の専用素材に変えることで、汗によるムレを軽減し、涼しさもかなり感じられる仕立てです。
まとめ
裏地を使う範囲を変えたり、仕立てを変えることで、一見暑そうに見えるスーツも涼しく着ることができます。
湿度の高い日本の夏もスーツスタイルで過ごす場合には、こういったところに気をつけてみるのも良いかもしれません。
裏地の量や面積が少ないほど羽織るという感覚に近く、体に吸い付くようなフィット感が得られ涼しく感じられる一方で、カジュアルな印象になってしまう場合もあります。TPOやお好みで色々なオーダースーツやジャケットをお楽しみください。
さて、裏地や裏仕様について説明してまいりましたが、スーツを着用して作業をされたり激しく動き回ったりする方、大半を屋外で過ごされる方、また屋内のクーラーのきいた中でのお仕事、もしくは見た目のシルエットを重視される方など、様々なシーンや用途が考えられます。
シチュエーションに合った仕様をお選びいただくのがベストです。